傾国の姫君
しるし10-2 今度は私が会いに行く
「なんだかイメージとはちょっと違ったけど、お優しそうな御両親よねぇ〜」 魔王様が帰られたその日の夜、私は貰った絵本をベッドで読んでもらいながら、ふんわりといい気分になっていた。 「……お似合いでとっても素敵な御夫婦だったわ……」 堂々として聡明そうな魔王様と、美しく上品な女王様なんて、正に理想なんじゃない? 「……別に普通だろう」 うっとりとしている私に向かってライナスが絵本の中盤を読みながら言う。 「え〜、そうかしら? あ、でも魔族って長生きじゃない? ってことはライナスも……?」 「そうだ」 じゃぁ、私が先に死んじゃうのね。って言おうとしたら、ページを捲る手が止まった。 「……だがお前も魔族になれば、俺達と同じ時間を持つようになる」 この絵本の通りにな。と言いながら差した指の先には、オリヴィアとアークライトの寄り添う姿があった。 「そう言えばオリヴィアも竜の血と混ざれば生きる時間を共有できるって言ってた」 「そうだ」 でもどういうことなのかしら? 人って魔族になれるの? 「そう言えば、エルネスタには魔族って神竜と言葉の契約を交わした一族だっていう言伝えがあるんだけど?」 「……それはここだな」 もう一枚ページを捲り、ライナスが真語の場所を指差す。 「……なんて書いてあるのか読めないわ」 「………」 何かを考え込むように黙り込んだライナスに、私はその続きをせがんだ。 「ねぇったら」 「この文字の意味は」 「うん」 「……愛している……だ」 「!?」 ぼそりと言ったライナスの言葉に驚いて、思わずベッドから飛び起きちゃった。その振動で眠っていたアークがピィと鳴く。いけない、起しちゃうわ。 「そうなの? じゃぁやっぱり二人は……」 嬉しくなって絵本を見詰め直す。あら? でもまだ続きがあるわ。 「それで? それで?」 「神界から堕ちた心優しい娘を憐れんだ神竜様は、二匹の竜を使いに出されました」 絵本を差し出し続きをせがむ私の言葉に、ライナスが次を読んでくれる。 「その竜の口には火竜草が咥えられていました」 「うんうん」 「その種が落ち、荒れた土地は竜が住める緑豊かな大地へと変わったのです」 「!」 「そして、この生まれ変わった緑の大地で、二人はつがいの竜と共にいつまでも幸せに暮らしました」 きゃぁ〜! 「やっぱり最高の結末ねっ! 神竜様は二人を見捨てなかったんじゃないっ。あの後オリヴィア達は幸せだったんだわっ!」 嬉しくなってはしゃぐ私を、ライナスが半分困ったように見詰める。 「……実際に見てきたお前には堪らないだろうな」 勿論そうよっ! しかも神竜様からの贈り物で、アークが望んでた緑の土地になったなんてっ、そしてそれが今も続いてるなんて、願いが叶ったんだもの。これが最高じゃなくて何だって言うの!? 「……はしゃぐのも良いが、もう遅い。明日の練習に響くぞ」 言われて布団の中に潜り込む。でも興奮して眠れそうにないわ。 「アークもオリヴィアも、幸せだったのかしら?」 「だろうな、そう書いてある」 そっかぁ〜本当に良かったわ。 私は暖かくなった心と、一番のお気に入りとなった絵本を抱き締めて目を瞑った。 色々と大変だったけど、見てきたことは本当だったんだわ。だけどもう一度アークとオリヴィアに会いたいわ……。 寝息を立て始めた私の額をライナスが優しく撫でる。 「祖王に負けない位の話をお前と共に……してみるのも悪くはないな……」 そう呟いたライナスの柔らかい眼差しを、眠りについた私は気付くことが出来なかった。
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