傾国の姫君

 

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しるし1-2 私だってがんばらなきゃ


 

ちらちらと燭台の炎が薄暗い室内を照らす中、私とライナスはベッドの中で色々な話をしていた。

「じゃぁ次、アルヴィアの意味は?」

「才能ある美しさ……女性に使う時は才色兼備、という意味になるな」

私はここに来て興味を持った、真語の意味を眠りながらライナスに尋ねるようになっていた。

ベッドで一緒に寝ることは随分前にもう慣れたわ。だってもう勝手にキス……しないって約束してくれたから。それにライナスの声って低くて耳に気持ち良くって、眠る前の私を安心させてくれるの。

「じゃ……ガイル……」

「屈強な……という意味だ」

すーすー。

あまりにも気持ち良すぎて途中で眠ってしまった。そんな私にライナスが掛け布団を掛け直してくれたけど、それにももう気付くことは出来ない。

「この国にも大分慣れたようだな……」

額に柔らかく掛かる前髪を優しく撫で上げ、そこに軽くキスを落とす。その時、優しく見詰めていたライナスの瞳が一瞬苦しそうに細められた。そのまま額にあった細い指で淡く色付く柔らかな唇をそっとなぞる。

「……リーナ……」

ゆっくりとした吐息と共に吐き出された響きは、愛おしさと切なさを含んでいるかのように、甘く低い。

「無理強いはしないと誓った……だが時間がないかも知れないぞ……」

言うと、ゆっくりと身を離す。これ以上見詰めている事が耐えられないような、そんな苦しそうな姿であった。

そのままゆっくりと持ち上げた腕で宙を払うように一振りする。その緩慢な動きにさえ反応したかのように、部屋の隅にあった燭台の炎がすっと消えた。

薄暗い闇に包まれた室内に、まだ幼さを残す姫君の安らかな寝息だけが、規則正しく響いていた……。

 

 

 

さぁっ、今日からは軍の演習を見学できるんだわっ。しかも飛行訓練もしてもらえるのよっ!

私は張り切って朝早く目覚めると、まだ巻き付いたままのライナスの腕を揺すった。

「もう朝よっ、早く起きて!」

ゆっくりと開いた金色の瞳に見惚れそうになりながらも体を離す。

「もうっ、なんで毎朝こんなにくっついてるよっ!」

一瞬見惚れてしまった気恥ずかしさを誤魔化すように文句を言う。

「随分な言われようだな」

何度か瞬いた後、ライナスが不機嫌そうにぼそりと言った。

「……真夜中に何度も寝返りを打って、俺に抱き着いて来ているのはお前の方だというのに……」

なんですってぇ!?

「そっ……そんなことっ、ある訳ないじゃないっ!」

突然なんてこと言い出すのよっ! 眠ってる私に意識がないと思って、勝手なこと言ってるんじゃないのっ!?

「その度に目が覚め、最近は寝不足気味だ」

つまり、私の寝相が悪いから寝不足だって言いたいわけっ!?

「じゃ……じゃあっ、今度から別々に眠ればいいじゃないっ! 私は一人でも全然平気なんだからっ!」

子供じゃないんだしっ、添い寝なんていらないわよっ!

「……分かった、丁度良いかも知れないな。今夜からは別の部屋を用意させよう」

丁度いいってなにがよ? って聞き返そうとしたら、グレイムさんが朝の挨拶に訪れたもんだから、そこで話は中断になったわ。

でもっ、言い掛かりを付けてきたのはライナスの方なんですからねっ! 私は絶対に謝らないわよっ!

不貞腐れた私はライナスを置き去りにしたまま、朝食を取るための部屋へとずんずん歩いて行った。

その直後ライナスの唇から深い溜息が漏れる。

「……今夜からは別の部屋で休む」

「……そのような時期ですか……」

事情を察知したグレイムが気遣わし気にライナスへと話し掛けた。

「お部屋の準備はすぐにでも出来ますが、姫様に事情を説明は……なされないのですか?」

「説明したとて、理解出来るはずもあるまい……」

ぼそりと言った一言に、グレイムがゆっくりと頷く。悩ましげに吐き出された吐息に甘い香りが含まれていた事に、ここには居ない私が気付けるはずもなかった……。 


 

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