傾国の姫君

 

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特徴4-1 「あなたの安らげる場所になりたい」


 

「エルネスタより戻られてから、お勉強に熱心になられましたね」

「あら? 前から熱心だったわよ」

私は辞書で単語の意味を調べながら、今までの文章を添削してくれているガイルに向かって自信満々に言った。

「……まぁ良い傾向だとは思いますが」

何よ? 今までもこれからも真面目なつもりよ?

「だって頑張らなきゃいけないんだから」

そう言った私の顔を、ガイルが不思議そうに見詰めた。

「向こうで何かありましたか?」

「別になにもないけど、私だって何かの役に立つかも知れないって思って」

そう言ったら隣のアルヴィアから柔らかい微笑がこぼれた。

「自覚され、努力される事は素晴らしい事だと思います」

何だか大げさねぇ。私は相変わらず真面目なアルヴィアの顔を見詰めながら溜息をついた。

この国が人間達から恐れられ、疎まれている事は分かったわ。魔国は相変わらず野蛮な国だと思われてて、竜が狙われているかも知れないって事も。だからって実際何をすればいいのかなんてまだ分からないわ。

だけどアークや竜達が狙われてるかもって思ったら、何かをせずには居られなかった。だって竜達に被害が起こった後じゃ遅いんだもの。それこそ全面戦争にでもなったら大変じゃない。

「この国に来た人間は私達しかいないんだから、私達にしか出来ない事があるはずだわ」

そのためにはまずこの国を知らなきゃ。そして今の状況を正しく判断できるようにならなきゃって思ったの。

「そうですね」

頷いたアルヴィアに、私は調べた単語の意味を伝えた。そんな私達の姿を見ながら、ガイルは何も言わずに満足そうに微笑んでいる。

「ではこれからはもう少し難しい本にしましょうか」

うっ……。

「ま、まぁそうね。もう子供の読む本は充分だわ」

藪蛇かなぁとは思ったけど、レベルアップは大事だわ。私は新しく本を探し始めたガイルの横顔を見詰めながらそっと溜息をついた。

 

 

 

「あら、ライナスはまだなの?」

やっと夕食になったって言うのに、ライナスの姿がないわ。これじゃ食事を始められないじゃない。

お腹が空いていた私は部屋の隅に静かに立っていたグレイムさんに向かって尋ねた。

「会議がまだ長引いているようですね」

扉を見詰めながら答えたグレイムさんも心配そうだわ。

「遅くなった」

丁度見詰めていた扉からライナスが姿を現したわ。目が合った私に向かって言うと足早に席に着く。

「……大変そうね」

始まった食事を口に運びながらライナスに尋ねる。

「いや、謁見の後の会議は始まりが遅いだけだ」

何でもない事みたいに言うけれど、明らかに表情が疲れてるじゃない。そう言いたかったけど、これ以上煩わせるのもいけないと思って言葉を飲み込む。

「あんまり無理しないでね」

それだけを言った私に向かってライナスが優しく微笑む。だけど何も言ってくれないことが寂しい時だってあるって、私はこの時初めて感じた。

 

「明日は私も軍の会議に出席いたしますので、お勉強はお一人でなさって下さい」

食事が終って席を立とうとした私に向かってガイルが言った。

「そう、大丈夫よ。今日の続きをしておくわね」

ガイルから新しく渡された本は、この国の習慣に関するものだったわ。文章はあまり難しくないし、この国のことに興味があった私にとっては有難いくらいよ。

「そうですか、明日の夜に改めて添削しますので」

この国の厳しい四季と共に綴られた本はあまり厚みもないし、国の風習を知るためには必ず読んでおきたい内容だわ。

私は「任せて」とだけ言うと、疲れているだろうライナスを気遣って、最近また大きくなったアークに食事を取らせるために席を立った。


 

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