傾国の姫君

 

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しるし8 もう私のほうが強い


 

朝の支度を終えた私達は、いつも通りに朝食を取る部屋へと来ていた。

ライナスは相変わらずあの火竜草のサラダをメインに食べているわ。あんな不味い物、よく喉を通るわね……なんて感心していたら、グレイムさんがそっと部屋の中へ入って来た。

「ライナス様、パメラの産卵が無事終わったと連絡が入りました」

「えぇっ!?」

その報告に驚いたのは私の方だった。ライナスなんて平気な顔してるんだもの。

「そうか、予想より早かったな」

「はい、孵化は一月後の予定です」

それだけを言うと、グレイムさんは頭を下げ、部屋を出て行った。

「ねぇねぇ」

「駄目だ」

「もうっ! 何が言いたいのか聞いてから答えてよっ!」

「パメラの卵を見せろと言うんだろう」

「………」

私はそれ以上何も言えなくなってしまった。だって当たりなんですもの。

「卵を産んだばかりの雌竜は、それを守るために気が立っている。この時期の竜ほど危険なものはないんだ」

そうなんだ……。そう言えば、私を落としたのも不安定な時期に乗っていたからだって言ってたわね……。

それじゃぁ仕方がないかと思ったのと同時に、あることが気になった。

「ライナスは……具合良くなったの?」

パメラと一緒に不安定になるんだって、前にガイルが言ってたけど……。

「……俺の状態を誰かに聞いたのか?」

見詰めてくるライナスの金の瞳には、いつも以上に真剣な光が宿っていた。やっぱり大切なこと……だったのかな?

「うううん、ガイルに聞いたんだけど、教えてはくれなかったわ」

「そうか……」

でもちょっと安心したような溜息が漏れたのを私は見逃さなかったわ。

「ライナス本人に聞けって。でも……聞く時には覚悟をしろって……」

「……大袈裟な……だが、そうかも知れないな」

「……え?」

「お前自身にも関係のあること……だからな。だがパメラが産卵したとなると、俺の状態も落ち着く。お前にはまだ早い事だ。もっと竜の性質を知ってからの方が良いだろう」

やっぱり種族が違うと色々とあるんだわ。

「……分かったわ。でもこれから色々と教えてね?」

そう言いながら紅茶を飲んだ私の顔を、ライナスが複雑そうな顔をして見詰めてる。なんなのかしら? と思った時、ピィピィと鳴くアークを抱えたアルヴィアが、困ったような顔をして部屋に入ってきた。

「お食事中とは思いますが、あまりにも鳴くもので……」

ピィーーッ!

私を見付けたアークが一目散に駆け寄ってくる。転げながらも必死な様子のピンク色が可愛らしくて、私は思わず笑ってしまった。

「孵化した直後にお前を見たのだろうな」

「え?」

抱きかかえたアークはクルクルと喉を鳴らして掌に擦り寄ってくる。

「お前を母親だと思っているのだろう」

えぇっ!?

驚いてアークを見詰めると、彼は嬉しそうにチィと甘えた声を出した。

「竜は孵化したばかりが一番弱く、危険に晒される。その時に必ず傍に居るのが母親だ。だから一番最初に見た者を母だと思う習性がある」

そう……なんだ……?

アークの頭を撫でてやると、彼は嬉しそうに目を瞑った。もうその反応が可愛いったらないわ。

「じゃぁもうアークとの繋がりは、私の方が強いってことね?」

私は嬉しくなってライナスに確認をする。だけど彼ったら難しい顔をしたわ。

「本来は母竜が教えなければならないことを、今からお前が教えるんだ、大変だぞ?」

「大丈夫っ、頑張るわっ!」

こんなに可愛いんだもの、それにアークはライナスの命の恩人……恩竜なのよ?

「これからは、ライナスが竜の性質を教えてくれるんでしょう?」

「………」

「……じゃぁいいわ、無理にでもガイルに聞くから」

「分かった、俺が教える」

事情を全く知らない私は、ライナスに無理矢理承諾を得ると、ご機嫌でアークに言った。

「私がリーナママよ〜」

「………」

その姿を見たライナスの深い溜息を、浮かれたままの私は気付くことが出来なかった。


 

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